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日々の戯言など。本や観劇、いろいろな出会いの記録
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 国立国会図書館国際子ども図書館
展示会「日本発☆子どもの本、海を渡る」の一環で行われた関連講演会拝聴いたしました。
 
ななさん、いつもお誘い有り難うございます。
 
国立国会図書館子ども図書館は初めて行きましたが、建物自体がとても素敵でした。
1996年に建築され、百年あまり。建物自体はとても古いのでしょうけど、内装も綺麗にされていますし、階段やドア、天井も様々なレリーフが施され、観賞にもとても良かったです。
その国際子ども図書館で『日本発☆子どもの本、海を渡る』展示会が開かれています。
「銀河鉄道の夜」を初めとした宮沢賢治の童話をはじめ、石井桃子先生やまつたにみよこ先生の絵本、黒柳徹子さん『窓ぎわのトットちゃん』、神沢利子『くまの子ウーフ』といった懐かしい絵本。
そして、勿論『Sadako』も。
あの『原爆の子』像のモデルとなった佐々木禎子さんを描いた本(翻訳本ではありませんですが)です。
日本発信の、こういった作品がもっと海外に普及されるように祈らずにいられませんでした。
 
 
そして、その一環で行われた講演会。
上橋先生のファンですが、今回お話を聞けた翻訳者の平野キャシー先生。この方もとても素敵な方でした。
対談ではお二人のお話が盛り上がり、楽しかったです。
 
前半では出版事情について、後半では翻訳のテクニックについて語られました。
お話を聞いているのが楽しく、メモを取る手が全然追いつかなかったのですが印象に残った箇所を書き留めてみます。

ななさんのブログではもっと詳細が語られるかと思いますので、そちらも楽しみにして下さい。

以下、続きからどうぞ。


※長い文章で済みません。訂正箇所があればお願いします。
 


 
 
【出版事情について】
今回、『精霊の守り人』英訳版 については、上橋先生ご自身がずっと望んできたこと。
それというのも、外国(上橋先生が研究のテーマにされているアボリジニの、オーストラリアにおいて)では子ども達が日本について全くといって良いほど知識が無く、子ども達から上橋先生に対し『あなたのクラスに忍者はいましたか』という質問が出たほど、だそうです。
この話で、『日本人の知らない日本語』の本を思い出しました。
外国人が日本人に対して抱くイメージは、黒澤明監督の映画くらいしかないのでしょう。(ブシ、サムライ、ニンジャ)
それというのも、『子ども達が日本のお話を殆ど知らないから』と、上橋先生は気付いたそうです。
先生ご自身は、英文学『ツバメ号とアマゾン号』(ラムセル)の話を小さい頃読んで、その本の中の子ども達と一緒に冒険を楽しんでいたので、イギリスの子ども達と文化は違うけれど感覚は共通している、ということを実感していたそうです。
なので『精霊の守り人』を海外の子ども達にも読んで貰って、日本のことを知って貰い版元の偕成社さんに交渉したところ、偕成社さんから翻訳代を出しましょう、ということになりました。
 
しかし大変なのは此所からで、海外の出版社は児童書の翻訳本出版に対してはかなりシビア。『売れる』という確証がないと、出版できない。
実際、日本に入ってくる海外の翻訳本に比べて日本から海外へ翻訳され、出版される本はあまりにも少ない。
 
そして、キャシー中島さんを始め、日本語の本を訳す翻訳家さん達の仕事の代金も凄く安く、ビジネスとしてはパテントや医学・専門知識が必要とされる物、そしてゲームのコンテンツの翻訳というものしか売れない。
そういった事情だから、ましてや児童文学を翻訳するための訳者が育つのは尚更難しい、ということでした。
 
キャシーさんはこの作品が凄い好き、だから翻訳したし、日本にも海外にも、本当に好きだ差から訳している人が多いと言うことを知って欲しい。
荻原規子さんの『空色勾玉』がキャシーさんの初めての童話翻訳、ということでしたが残念ながら絶版になりました。
 
そしてどこの書店でも買えなくなってしまい、図書館から盗んでしまった人、12、3歳の子がやっとの思いで入手し、是非他の人にも読んで貰いたいと全部自分のサイトに打ち込んで公開してしまったり、そうした流れをうけて、現在米国の別の出版社から再版が決定したそうです。
こういった行為は勿論違法ですが、そこまでの熱意を持つファンが多い、ということですね。
 
でも、キャシーさん自身が翻訳したその仕事料金は44$。他の仕事(仕様書の翻訳など)に比べてあまりにも単価は安い。
その上、再版されても一切ペイが支払われない、という状況だそうです。
でも、翻訳して出版され、もっと多くの人に読んで欲しいから、どうか皆さん是非買って欲しいと。
はい、アマゾンでポチらせていただきました!!
 
そして、今回の翻訳に当たり、上橋先生ご自身とキャシーさん、そして米国の編集者(Sheryl!…私とななさんが異常に反応してしまいました。すみません(笑)との間、かなり密の濃いやりとりが行われていたそうです。
上橋先生は自分の作品を大事にされる。
編集者さんは此話を米国の子ども達に読んで貰いたいから分かりやすくしたい。
そして、その二人の間を取り持ち、意思の疎通を繋げていたキャシーさん。
…恐らく一番ご苦労なさったと思います。
本当にお疲れ様でした。
編集者さんが構成した文章を読んで、上橋先生が『ふざけんなーー!』とお怒りになれば(笑)、『上橋先生は大変感謝しています。ですがもう少しここをこう…』とオブラートに何十にも来るんで両者の意図をくみ取り、一生懸命翻訳された(これも一種の翻訳ですよね)というのが、素晴らしいなと。
もし上橋先生と編集者さんがダイレクトにやりとりしていたら喧嘩別れした挙げ句、『MORIBITO』は日の目を見ることはなかったかもしれません。
…それでも、編集者さんご自身がこの話をとても大事にされ、お好きだからなんとかなったんでしょうが。
 
面白い、と思ったのは『バルサが三十歳、というのは米国では読まれない』ということ。
最初の数ページでいきなり『主人公は三十歳』というのは、児童文学としては受け入れられないので、ここで誰も読まなくなってしまうと。
なので、冒頭バルサの年齢を描くのはやめて、物語に読者を十分に惹きこみ、バルサの魅力に惚れさせてから実は彼女は30歳だ、ということを明かしたということ。
(でもタンダ初登場シーンでは、年齢をはっきり27、8と書いていたからこの時点で、読者はバルサがタンダより年下、と思ったかも知れませんね?)
当然翻訳していても日本語のニュアンスと向こうのニュアンスは違いますし、文章の流れも、主語をはっきりしたい欧米と主語もナレーターも曖昧になっている日本では全く違い、その点でも非常に苦労されたそうです。
配付された資料で、日英比較の文章(タンダ初登場シーン。『精霊の守り人』ハードカバー版、p111)では、バルサが「ジグロは死んだんだっけ」と呟く前に、彼女の状況が先に、それから心情が描かれていますが、翻訳版ではまずバルサの心情が先に表現されています。
思考の流れ自体が大きく違うんですね。
 
翻訳中は、香川在住のキャシーさんと香川のホテルに泊まり、結局香川ではホテル近くのうどん屋さんでしか『香川らしさ』を味わうことができなかったのが残念、と仰っていたのも上橋先生らしくて素敵なEpisodeだと感じました。
 
 
【翻訳のテクニック】
お二人とも背がそれ程高くないから、座ってしまうと自分たちの姿が見えなくなってしまうとここまでずっと立ったままお話しされていました(演台があれば良かったですよね)。
お疲れ様です。
 
キャシーさんは、上橋先生よりも背はありますが、それでも欧米女性としてはそれほど高くないように見受けられました。
上橋先生が元気いっぱい、キャシーさんは上橋先生のエネルギーを受け止め、それを上手く中和しているような雰囲気でした。とても上品な、気品のある方とお見受けします。素敵でした。
 
上記でも書きましたが上橋先生ご自身は結構きつい言葉も使われるので、それをそのまま編集者さんに伝えず、うまく伝えられたのでしょう。
 
英語ではまず主体ありき、その場面において登場人物がいれば、その思考を追っていきたいのにナレーションが誰の物なのかはっきりしないと読者は混乱する、ということでした。
そのため、シュガの初登場シーンでは、新ヨゴ皇国建国の歴史がナレーション(登場人物ではないなにものか)に語られるため、編集者さんは「歴史については全く触れなくてもいい」とまで言ったそうです。
それを聴いて上橋先生は一度お怒りになっても、キャシーさんの説明を受け、納得されて先生ご自身で書き直されたそうです。
 
新キャラへの感情移入のために、シュガ自身に新ヨゴ皇国建国の歴史を語られる、という形式を取ったそうです。
 
そうすることによって非常にロジックな流れが生まれ、向こうにとって違和感のない文章になったと。
 
翻訳して難しかったのはいくつかありますが、その中で日本にあっても英語にない言葉、《気配》。
意識という物は、人が物に対してする意識。
能動性ではない、主体的な物。
そして、”殺気”もない。
 
この間のやりとりで、向こうの編集さんも一切妥協せず、熱い議論が交わされたそうです。
 
先生ご自身がバルサの性格を現すのに、はじめの部分、お后に会う時に「これでも着替えは二枚持っているからね」という言葉がどうしても通用せず、女中にその心情を語らせてみたと。
そして、佳境のラルンガとの戦い、バルサがタンダの方へ一瞬意識を向けたせいで、完全にチャグムが精霊に意識を乗っ取られ、見失ってしまうところ。

まず状況描写があり、それからバルサが『しまった、タンダに気を取られた隙に』と反省するのは、かなり時間が経ってからで今更反省するというのはおかしい、文章のスピード感が打ち消されてしまうから不要、だと。
 
"less is more"という、話の流れを殺してしまう描写は極力削る、という意識のようです。
そして、英語圏の人が苦手としているのは、"Head Jumping" つまり、登場人物の視点が違うと気持ち悪いということだそうです。
日本語ではそれが曖昧になっているので、キャシーさんは気付かなかったようでしたが。
 
そして、『トロガイ”師”』チャグムが「トロガイ師は女だったのか!」と驚くシーン。最初から”She”と”He”をはっきりさせなければいけない英語では、なるべくそれを使わず表現するのはかなり苦慮されたようです。
そして、”師”というのが訳せない。”Master”は、英語では”男性限定”であって女性には使えない。
そこでこれを逆手に取り、『トロガイ師は女性だけど、ヤクーでは優れた呪術者のことを男性でも女性でも”Master”と呼ぶんだよ』と、バルサに語らせた、というのが上手いなと思いました。
 
そして、バルサさんがよく使う「畜生!」等は英語で直訳すると、”Damn!”ですが、この言葉を入れてしまうと学校の図書館には置けなくなってしまうんですね。
欧米の教育は、子ども達に汚い言葉に触れさせないようにするので、一言でも入ってしまうとNGになるそうです。
だけど、キャシーさんも編集者さんも、このバルサのキャラを壊したくない、と読者をバルサに惚れさせてから、後半で入れた、ということでした。
また、日本語では身分階級によって言葉遣いが違うのですが、(チャグムがその言葉遣いから一発で王子とばれる)それが米国にはない(QueensEnglishやKingsEnglishのようなものはない)ので、それを伝える箇所が描けない、ということ。
人々の口調で差が出せない、ということでした。
 
そして、キャシーさんがこの児童文学の翻訳、という世界に入った切っ掛けは自分の子どもにこの『文化』を伝えたい。違う文化で描かれた物に触れることで、視野が広がるから。
できるだけ自分がその世界に入ってしまうということ、その感覚を伝えたいからと。
 
【Q&Aコーナー】
休憩時間を15分ほど取り、その間などで事前に配られたアンケート用紙にお二人それぞれ、お二人同時への質問を書き、それを集めて質問に答えて頂く、というコーナーを設けて頂きました。
ただ、知りたかったこと、訊きたかったことはお二人自身の口から先に語られたので、あまりありませんでしたが。
 
・英語の翻訳でこれだけ苦労されたのだから、他の言語(フランス語とかスウェーデンとか台湾とか韓国語とか)ではもっと苦労されたのではないか?
→他の言語については投げた!
幸い、英語版が優れている。英語版がマスター版となってくれるだろうから、大丈夫です。
・翻訳本の表紙に使われているイラストなどについて、イメージがあまりにも違うように感じるがどう思いますか?
→自分のイメージが近い、近くないというのは関係ない。
大事なのは、日本人でなくこの本を取ってくれる人がどう思うか。
表紙絵や装幀が素晴らしく、本当にこの本を売りたいんだという出版社の意図が伝わり、嬉しかった。
日本人が書いた物だから、日本のイメージを持たれてしまう、というのは結局仕方がないし、決して悪い物ばかりでない。
トールキンの『指輪物語』のように、ファンタジーの世界でありながら自分の持つ日本というバックボーンが滲む、それを読者が感じてくれたら嬉しい
・訳すのが難しかった名詞
→狩人のスン。SunやSoonになるが、それだと英語の意味が入ってしまうのでSuneとした。実際、キャシーさん自身が発音し、上橋先生がそれを確かめた。
(キャシーさんがご自分で一部朗読されてましたが、うっとりと意味が半分くらいわからなくとも聞き惚れてしまいました。朗読CD出して頂きたい、と思います)
そして、対談中何度も語られましたが、キャシーさんから改めて語られたのは。
『日本の本が英語で売れない』→『翻訳されない』→という、悪循環を断ち切って欲しい。その為に、日本でも翻訳本を買って欲しい。
それは異文化への理解に繋がり合う。
共感したのはバルサ。
日本人、としてでなく、一人の人間としてその魅力が伝わった。本を通して異文化を体験し、それを面白いと感じる。
 
大事なのは、異文化への否定から理解は生まれない。
わかり合えないと言うことも含めて楽しむ。
 
 
英語の本は未だに一冊通して読み切ったことがないので、改めて挑戦したいと思います。
キャシーさんのお話を聞き、キャシーさん自身のファンにもなったのでそれが一番の収穫でした。
 
異文化だけでなく、違う思考を持つ人々とも、わかり合えなくてもそれを嘆いたり諦めるのでなく、楽しんでいこう、と思えるようになりました。
 
上橋菜穂子先生、平野キャシー先生及び関係者の方々。
今回のような素晴らしい講演会の開催、本当にありがとうございました。

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